スマホが苦手でも大丈夫――高齢者のデジタル格差と、これからの「デジタル・エイジング」

最近、街を歩いていると、「スマートフォンが使えないと不便な時代になったな」と感じることが増えました。

飲食店ではタッチパネルで注文し、コンビニではセルフレジを使う。電車や新幹線の切符もスマートフォンで予約でき、銀行の手続きも窓口ではなくアプリで済ませることが多くなりました。

病院の予約や行政の手続きまで、インターネットを使うのが当たり前になりつつあります。

確かに便利です。

けれど、その便利さを誰もが同じように感じているとは限りません。

「スマホはどうも苦手で……」
「画面を見ても、どこを押せばいいのかわからない」

そんな声を聞くこともあります。

特に年齢を重ねた人にとって、急速に進むデジタル化は、便利さと同時に新たな戸惑いを生むことがあります。

単にスマートフォンが使えないという話ではありません。

買い物や交通、銀行、病院など、毎日の暮らしに欠かせないサービスまで利用しづらくなってしまうことがあるからです。

こうした「デジタル格差」を考えるうえで、これからますます大切になってくるのが「デジタル・エイジング」という考え方です。

これは、高齢になってもデジタル技術を無理なく取り入れながら、人とのつながりを保ち、自分らしい暮らしを続けていくための考え方です。

身近なところで広がる「デジタル格差」

デジタル格差という言葉を聞くと、少し大げさに感じるかもしれません。

でも、実際には私たちの身近なところですでに起きています。

たとえば、飲食店に入ったら、注文はタッチパネルだけ。

駅では切符の買い方が以前よりわかりにくくなり、スマートフォンでの予約をすすめられることもあります。

銀行では店舗が少なくなり、残高の確認や振り込みもスマートフォンのアプリが中心になってきました。

病院でも、インターネットから予約できるところが増えています。

若い世代にとっては簡単な操作でも、スマートフォンに慣れていない人にとっては、一つひとつが大きな壁になることがあります。

「後ろに人が並んでいるから、ゆっくり操作できない」

「間違えて押したらどうしよう」

「店員さんに聞くのは少し恥ずかしい」

そんな気持ちから、利用すること自体をあきらめてしまうこともあるでしょう。

本当に問題なのは、スマートフォンの操作が苦手なことではありません。

デジタル化が進むことで、これまで普通に利用できていたサービスから、知らないうちに取り残されてしまうことなのです。

お金や病院のことになると、不安はさらに大きくなる

スマートフォンの操作に慣れていない場合、金融や医療に関する手続きでは、より強い不安を感じるかもしれません。

銀行のアプリで送金する。

スマートフォンで口座の残高を確認する。

インターネットから病院を予約する。

マイナンバーカードを使って行政サービスを利用する。

こうした便利な仕組みが増える一方で、「間違った操作をしてしまったらどうしよう」という心配もあります。

さらに気をつけたいのが、フィッシング詐欺や特殊詐欺などのデジタル犯罪です。

「お金を受け取るには、こちらをクリックしてください」

「口座に問題があるため、確認してください」

そんなメッセージが突然届いたら、慣れていない人ほど戸惑ってしまいます。

だからこそ、高齢者向けのデジタル教育では、スマートフォンの使い方だけを教えるのではなく、「怪しいメールやメッセージを見分ける力」も一緒に身につけることが大切です。

スマホ教室で大切なのは、「すぐ役立つこと」

高齢者向けのスマートフォン教室というと、たくさんの機能を覚えなければならないように感じるかもしれません。

でも、本当に必要なのは、毎日の暮らしの中ですぐに使えることではないでしょうか。

たとえば、

・電車の乗り換えを調べる
・天気を確認する
・地図を見る
・家族に写真を送る
・タクシーを呼ぶ
・病院の予約をする
・買い物をする

こうした身近なことから始めれば、覚えたことがそのまま生活に役立ちます。

一度説明を聞いただけで覚えられなくても、気にする必要はありません。

同じ操作を何度も練習できる場所があれば、少しずつできることは増えていきます。

「わからなくても、もう一度聞けばいい」

そう思える環境があることが何より大切です。

同じ世代だからこそ、聞きやすいこともある

スマートフォンの使い方を教えてもらうとき、若い人が相手だと、つい遠慮してしまうことがあります。

「こんなことも知らないと思われたら恥ずかしい」

「何度も聞くのは申し訳ない」

そんな気持ちになる人もいるでしょう。

そこで、同じくらいの年代の人が教える方法も考えられます。

少し先にスマートフォンを使い始めた人が、同年代の人にゆっくり教える。

「私も最初はよくわからなかったよ」

そんな一言があるだけで、ずいぶん気持ちが楽になるものです。

デジタルに詳しい人が一方的に教えるのではなく、お互いに教え合う。

地域の中に、そんなつながりが増えていくのもいいのではないでしょうか。

高齢者に合わせて、最初から「使いやすく」する

もちろん、利用する側だけに努力を求めるのも違います。

そもそも、サービスを提供する側が「誰にとっても使いやすいもの」をつくることが大切です。

文字が小さい。

ボタンが多すぎる。

何を押せばいいのかわからない。

一度間違えると、最初からやり直さなければならない。

こうした画面では、スマートフォンに慣れていない人ほど戸惑ってしまいます。

文字を大きくする。

必要なボタンだけを表示する。

「次へ」「戻る」など、意味がすぐにわかる言葉を使う。

音声で操作方法を案内する。

困ったときにスタッフを呼べるようにする。

こうした小さな工夫だけでも、使いやすさは大きく変わります。

AIが「身近な相談相手」になる日も

これからは、AIも高齢者の暮らしを支える存在になっていくかもしれません。

「明日の天気を教えて」

「この病院にはどうやって行けばいい?」

「このメールは本物かな?」

「孫に写真を送りたい」

そんなふうに話しかけるだけで、必要な情報を教えてもらえるようになれば、スマートフォンの操作が苦手な人にとっても心強いでしょう。

画面を何度もタップするより、話しかけるほうが簡単だと感じる人もいるはずです。

ただし、お金の送金や契約など、重要な手続きをAIに任せる場合には、本人が内容を確認できる仕組みも欠かせません。

便利であることと同じくらい、「安心して使えること」が大切です。

デジタルだけに頼らないことも大切

社会がデジタル化していくからといって、すべてをスマートフォンだけにする必要はありません。

電話で予約できる。

窓口で相談できる。

困ったときにスタッフに聞くことができる。

そんな選択肢を残しておくことも、デジタル社会には必要です。

「スマートフォンを使えない人が悪い」のではありません。

使える人も、まだ慣れていない人も、どちらも困らない仕組みにしていくこと。

それが、本当の意味でのデジタル化ではないでしょうか。

特に病院や行政、金融など、暮らしに直結する分野では、デジタル以外の方法を完全になくさない配慮が必要です。

地域に「ちょっと聞ける場所」があれば安心

これからは、地域の身近な場所で気軽に相談できる環境も必要になるでしょう。

公民館や地域の施設、老人福祉センターなどで、

「スマートフォンの設定を見てほしい」

「このメールは大丈夫?」

「写真を家族に送りたい」

「マイナンバーカードについて教えてほしい」

そんな相談ができれば、とても心強いはずです。

一度教えて終わりではなく、わからないときには何度でも聞ける。

そんな場所が近くにあるだけでも、デジタルに対する苦手意識は少しずつ変わっていくかもしれません。

「デジタル・エイジング」は、無理に若者と同じになることではない

デジタル・エイジングという言葉から、「高齢者も最新の技術を使いこなさなければならない」と考える必要はありません。

大切なのは、自分に必要なものを、自分に合った方法で使えることです。

スマートフォンを毎日使わなくてもいい。

キャッシュレス決済が苦手なら、現金を使ってもいい。

アプリの操作が難しければ、誰かに教えてもらえばいい。

便利なものは取り入れながら、無理なものは無理をしない。

そんな付き合い方でもいいのではないでしょうか。

おわりに――便利さより、「安心して使えること」

デジタル化は、これからも進んでいくでしょう。

買い物も、病院の予約も、銀行の手続きも、行政サービスも、今よりさらに便利になっていくはずです。

その一方で、便利になればなるほど、「使える人」と「使いにくい人」の差が広がってしまう可能性もあります。

だからこそ、「もっと頑張って覚えてください」と高齢者に求めるだけでは十分ではありません。

大きな文字。

わかりやすい画面。

困ったときに相談できる人。

電話や窓口といった、これまで使ってきた方法。

そして、必要なときにそっと支えてくれるAI。

こうしたものが一緒にあれば、デジタル社会はもっと暮らしやすくなるでしょう。

年齢を重ねても、わからないことを恥ずかしく思う必要はありません。

「わからないから教えて」と気軽に言える社会。

そして、使う人の立場に立って、わかりやすくつくられたサービス。

それこそが、これからの日本に必要なデジタル・エイジングなのではないでしょうか。

デジタル技術は、人を置き去りにするためのものではありません。

上手に使えば、家族や友人とのつながりを保ち、毎日の暮らしを少し楽にしてくれる便利な道具です。

無理をせず、自分のペースで取り入れていく。

そんなデジタルとの付き合い方が、これからの人生をより安心できるものにしてくれるのかもしれません。

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